たとえば企業が人を雇う時、その人が信用できる人かどうか事前に確認したいと思うのは、ある意味では当然と言えます。

それゆえに興信所などにその人の身元調査を依頼するとしても、ある一定の理解は示せることでしょう。

差別につながる身元調査をNGとしている

しかし、もしも本人の能力とは無関係な事項までもが調査されたりするとなると、それは問題でしょう。
たとえば部落出身者かどうかまで調査された例が過去に実際にありましたが、それは大きな社会問題にまで発展したのです。

厚生労働省の指導

そうした事例も踏まえた上で、現在では社会的差別に結びつくような身元調査は行うべきではないと厚生労働省も指導をしています。

大阪府の条例

また、大阪府には「大阪府部落差別事象に係る調査等の規制等に関する条例」があります。

この条例を興信所や探偵社に周知徹底させて、そうした調査をしないように努力義務を負わせているのです。

身元調査と法律上の話

しかし現実的に考えると、法的には身元調査の全面禁止などは不可能です。

ただ、調査はあくまでも本人の同意を得た上で、信用力や能力などを確認する目的に限定されるべきであり、その調査も必要な範囲だけに止めておくことが求められます。

もちろん、違法調査などは許されませんし、不適切な方法で身元調査が行なわれたりしたら、弁護士などの法律の専門家に速やかに相談すべきでしょう。

ちなみに日本におけるプライバシーの権利は、日本国憲法をはじめとした法律で明確に保障されているわけではありません。

ただ、日本国憲法第13条で保障されている基本的人権によってプライバシーの権利も保障されているという解釈も可能だとされています。

それにプライバシーの権利の侵害は、民法第709条の民法の不法行為として、民事上の責任を生じさせることがあります

その意味で、法律上保護された権利だとも言えるでしょう。

以上の事柄を総合的に考えると、もしも差別に繋がりかねない身元調査(部落出身者調査)を依頼したい人がいるとしても、そのような調査はするべきではないと考えられます。

興信所でもこのような依頼に関しては引き受けないケースが殆どです。大手の興信所であれば猶更です。

ただしプライバシーの権利は、裁判所によって完全に認められているわけではありません。

同意のない個人情報の目的外利用や私生活の秘密の公表は不法行為となりますが、開示請求権や訂正請求権はまだ認められてはいないのです。

それにプライバシーの権利が侵害されてから裁判所に訴えを起こしても、それには大きな労力と苦痛が伴います。

今後はプライバシーの権利の保護とは、その権利が侵害されないように、しっかりと法整備をすることが肝心でしょう。